ポジローぽけっと

昨日より今日、今日より明日を信じて、トライトライ

2016年3月に読んだ本

陰陽師

陰陽師(おんみょうじ) (文春文庫)

陰陽師(おんみょうじ) (文春文庫)

  • 「呪とはな、ようするに、ものを縛ることよ」

    「---」

    「ものの根本的な在様を縛るというのは、名だぞ」

    「---」

    「この世に名づけられぬものがあるとすれば、それは何ものでもないということだ。存在しないと言ってもよかろうな」

  • 式神を使うというのは、むろん、呪によるものだが、人を使うのも呪によるのだ」

    「---」

    「銭で縛るも、呪で縛るも、根本は同じということさ。しかも、名と同じで、その呪の本質は本人ーーつまり、呪をかけられる側の方にある……」

    「うむ」

    「同じ銭という呪で縛ろうとしても、縛られる者と、縛られぬ者がいる。銭では縛られぬ者も、恋という呪でたやすく縛られてしまう場合もある」

    「ううむ」

  • 「前から聞こうと思っていたのだが、おまえ、この広い屋敷に、たった独りでくらしているのではないか」

    「だとしたらどうなのだ」

    「淋しくはないのかと思ってな」

    「淋しい?」

    「人恋しくはならぬのか」

    博雅は、初めて、晴明に問うた。

    問うた博雅のその顔を、晴明が見つめ、小さく微笑した。

    この日、初めての晴明の笑みであった。

    「どうなのだ?」

    「それは、淋しくもあろうよ。人恋しくもなろうさ」

    他人のことについて話すように、晴明は言った。

    「しかし、それは、この屋敷に、人がいるとか、いないとか、そういうこととは関係がないぞ」

    「ではなんだ」

    「人は、独りよ」

    「独り?」

    「人とは、もともとそういうものだ」

    「人は、もともと、淋しく生まれついているということか」

    「そういうところだろうよ」

陰陽師 鳳凰の巻

陰陽師 鳳凰ノ巻 (文春文庫)

陰陽師 鳳凰ノ巻 (文春文庫)

  • 「どう凄いのだ」

    「おまえの言う通りだからさ」

    「ーーー」

    「鬼も神も、つまるところ、人との関わりなくしてはこの世にいない」

    「なに?」

    「人の心が、神にしろ鬼にしろ、それをこの世に生じさせるのだ」

    「まさか呪によってなどと言うつもりではないだろうな」

    「まさかではない。まさにその呪によって、神も鬼もこの世にあるのだ」

    「ーーー」

    「この地上から、全ての人が消え去るならば、神々や鬼もまた、この地上から消え去るのだよ」

  • 「晴明殿、実際に焼かれずとも、身体がこのようになってしまうことはあるのでございますか」

    「はい。呪にはそのような力がございますーー」

    晴明は頭を下げて言った。

    「ほれ、博雅ーー」

    博雅に向かって、小さな赤いものを投げた。

    何ごとかと思って、博雅が手を伸ばした時、

    「それは焼けた石ぞ」

    晴明が言った。

    両手で、晴明が投げたものを受けた瞬間、

    「熱っ」

    博雅は声をあげて、両手で受けたものを放り出した。

    それが床を転がって、為輔の膝先で止まった。

    よく見れば、それは焼けた石などではなく、ただの、小さな赤っぽい石であった。

    「どうだ、博雅、今、熱さを感じたろう」

    「う、うむ」

    博雅はうなずいた。

    「これも呪でございます」

    晴明は言った。

    「なるほど、熱いと思わせれば、熱いものでなくとも、人は熱さを感じてしまうのだな」

    「はい」

    「ようは、人の心の問題ということか」

    「その通りでございます」

  • あとがき

    イデアをひねり出す一番良い方法というのは、これはもう断言しておくが、

    ”ただひたすら精神を集中してそのことについて考えること”

    であろうと思う。

    脳がとろけて鼻の穴から流れ出てしまうくらい考える。ただそのことを考え続けるーー他にも色々方法はあるかもしれないが、これが最良の、しかも、もっとも効率の良い方法であることは間違いない。

陰陽師 竜笛の巻

陰陽師 龍笛ノ巻 (文春文庫)

陰陽師 龍笛ノ巻 (文春文庫)

アルケミスト

アルケミスト 夢を旅した少年 (角川文庫)

アルケミスト 夢を旅した少年 (角川文庫)